システム開発におけるプロトタイプとは?他手法との違いやメリットを解説
システム開発の手法には「アジャイル開発」や「ウォーターフォール」など、さまざまな手法があります。なかでも「プロトタイプって何?」と疑問に思う方も多いでしょう。
この記事では、プロトタイプ開発の進め方やメリット、活用事例までを詳しく解説します。
プロトタイプ開発を正しく理解し、より良いシステム開発に活かしましょう。
目次
プロトタイプとは試作品の検証を重ねながら完成形に近づける手法
プロトタイプとは、「原型」「試作品」という意味があります。簡易的な試作品を作成し、依頼者側の検証やフィードバックを重ねながら、最終形へ近づけていくシステム開発の手法です。
以下の項目ごとに、詳しく解説します。
- プロトタイプを用いる目的
- プロトタイプが注目されている理由
- プロトタイプの費用相場
順番に見ていきましょう。
プロトタイプを用いる目的
プロトタイプを用いる目的には、以下の3つがあります。
- 開発にかかるリスクの軽減
- 仕様に関する認識を共有する
- 仕様変更の手戻りを抑制する
プロトタイプは、簡易的な試作品をもとに検証・評価・改善を繰り返しながら、最終系に近づける手法です。試用期間はかかるものの、こまめにクライアントとの認識を共有しながら進めることで、開発を進める最中の認識のズレ防止が可能。
クライアントから都度、フィードバックを受けながら進められるので、完成間近の仕様変更や機能追加の手戻りを抑制する目的があります。
プロトタイプが注目されている理由
プロトタイプは近年登場した開発手法ではなく、1970年代ごろからすでに採用されていました。
当時のシステム開発の主流はウォーターフォール開発です。当時のプロトタイプ開発は、試作品を使い捨てとして破棄したため、コストが高く利用されていませんでした。
現在は使い捨て型ではなく、都度改善を加えながら開発する方法が取れるようになったことで、開発コストを抑えられると注目を集めています。
プロトタイプの費用相場は100〜1,000万円程度
プロトタイプの費用は、100万円〜1,000万円ほどになります。開発するシステムや搭載する機能によって総額は変わってくるでしょう。
だだし、開発するシステムが一般的なものであれば、すでに作成されているAIテンプレートでカスタマイズができるため、費用はさらに抑えられます。
一般的なシステム開発の費用について知りたいという方は、以下の記事も参考にしてください。
プロトタイプ開発と他手法との違い
プロトタイプ開発と他手法との違いは、以下のとおりです。
手法 | 特徴 |
---|---|
プロトタイプ | 1.簡易的な試作品を作成 2.依頼者側の検証やフィードバックを受ける 3.改善し、最終形へ近づけていく |
MVP開発 | 1.仮説を立てる 2.最小限の機能のみ実装する 3.ユーザーからフィードバックをもらう 4.改善し最終形へ近づけていく |
アジャイル開発 | ユーザーにとって価値あるものを 素早く提供することを重視する手法 |
スパイラル | 1.仕様を機能ごとに分解 2.重要な機能から開発を進める |
ウォーターフォール | 上流工程から下流工程まで 順を追って1つずつ進める開発手法 |
それぞれの手法に違いがあります。そのなかでもプロトタイプは、試作品をもとに検証・評価・改善を繰り返しながら開発を進める手法です。
そのため、他の開発手法に比べて、品質の高さや追加機能の手戻りの手間が省ける点が大きな違いといえます。
プロトタイプ以外のシステム開発手法については以下の記事にまとめています。詳しく知りたい方は参考にしてください。
MVP開発
MVP開発とは「必要最小限の製品」という意味がある、Minimum Viable Productを略した言葉です。「顧客にとって価値がある、必要最小限の機能のみを搭載した製品」のことを指します。
MVP開発は事業の仮説をもとに、コアとなる最小限の機能をより早く実装し、製品の必要性を検証する方法です。プロトタイプとも近しい手法ですが、MVP開発は実装する機能を必要最小限にかつ、ハイスピードにこだわって開発を進める違いがあります。
MVP開発について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
アジャイル開発
アジャイル開発とは、迅速かつ的確にシステム開発を行うことに特化した手法のこと。
その大きな特徴は、開発期間のスピードが速いことです。短期間で開発とリリースを繰り返しながら進めるため、仕様変更や機能追加にも柔軟に対応できます。
プロトタイプ開発以上にスピードにこだわり、開発とリリースを繰り返しながら顧客のニーズに応えていく手法です。
アジャイル開発について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
スパイラル
スパイラルとは、対象のシステムを機能ごとに分けて、重要度が高い機能から順に開発していく手法のこと。機能ごとに設計、開発、テスト、評価、改善を繰り返しながら完成に近づけていく点が、プロトタイプ開発との大きな違いです。
完成した機能ごとに顧客からフィードバックをもらうため、完成後の手戻りが少ないメリットがあります。
ウォーターフォール
ウォーターフォールとは英語で「滝」という意味があり、上流工程から下流工程まで流れるように開発工程を進める手法です。要件定義、企画、基本設計、開発、テストと順に開発を進める点が、プロトタイプ開発と違います。
ただし、ウォーターフォールは工程の手戻りができません。このデメリットを改善するために誕生した手法がプロトタイプ開発です。
ウォーターフォールについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
プロトタイプ開発の進め方
プロトタイプ開発は、以下の流れで行います。
- 要件定義
- 基本設計
- プロトタイプ開発
- 検証・評価
- 改善
- 本開発
- リリース
プロトタイプでは試作品を開発するため、要件定義〜開発までを素早く行うことが特徴です。それぞれの工程について、順番に解説します。
①要件定義
まずは要件定義をします。要件定義とは、システムに搭載する機能や仕様など「どのようなシステムにするのか」を決める工程です。
プロトタイプは簡易的な試作品をもとに追加する機能やデザインを決めていく手法です。そのため、要件定義の時点では細部まで作り込む必要はありません。
②基本設計
次に基本設計です。基本設計では、要件定義で決定した内容をもとに、搭載する機能やデザインの設計を進めます。
作成した試作品をもとに検証・評価・改善をしながら追加機能やデザインなどを決めるため、基本設計時点で必要なのは必要最低限のみです。
③プロトタイプ開発
次は開発です。プロトタイプ開発では、基本設計時点で決めた機能のみを搭載して、試作品を作成します。
フィードバックを重ねながら本開発に近づけることが目的なので、必要最低限に留めてスピード感を持って進めることが重要です。
④検証・評価
検証・評価では、作成した試作品の使用感を検証し、フィードバックを受ける工程です。
一般的には依頼者が検証しますが、場合によってはユーザーにフィードバックをもらうこともあります。
⑤改善
フィードバックをもとに試作品の改善を行う工程です。
検証や評価、改善の工程を繰り返し行いながら、完成品に近づけていきます。
⑥本開発
検証や評価、改善を繰り返した試作品をもとに、本格的に開発を進めます。
フィードバックの内容をもとに、機能やデザインの細部まで実装を終えたら、いよいよリリースです。
⑦リリース
本開発が終わったら、完成したシステムをリリースします。
リリース後は、システムの運用や保守を行い、都度不具合の修正やアップデートなど管理が必要です。
プロトタイプ開発のメリット3つ
プロトタイプ開発のメリットは以下の3つです。
- 完成像を早い段階で共有できる
- システムの品質を確保できる
- 仕様変更や機能追加にも柔軟に対応できる
順番に見ていきましょう。
①完成像を早い段階で共有できる
プロトタイプ開発は、完成像を早い段階で共有できるのがメリットです。完成像を早い段階で共有することで、開発当初から完成まで相互の認識のズレを防止できます。
また、試作品をクライアントに試用してもらうことで、クライアントの要望をすぐに取り入れることが可能です。そのため完成間近になってから、仕様変更や追加機能などの大幅な手戻りを抑制できます。
②システムの品質を確保できる
プロトタイプ開発は、システムの品質を確保できるメリットもあります。試作品をもとに、何度も検証と評価を重ねながら開発を進められるためです。
試用を繰り返して完成に近づけられるため、リリース後のトラブルの発生リスクも抑えられます。
③仕様変更や機能追加にも柔軟に対応できる
プロトタイプ開発は、仕様変更や機能追加にも柔軟に対応できます。試作品を作成してから、検証・評価のもと仕様変更や機能追加を想定している手法です。
そのため、認識のズレや要望にも素早く柔軟な対応ができます。
プロトタイプ開発のデメリット3つ
プロトタイプ開発のデメリットは以下の3つです。
- 大規模なプロジェクトには向いていない
- 開発コストが大きくなる
- 開発期間が長引きやすい
順番に解説します。
①大規模なプロジェクトには向いていない
プロトタイプ開発は、大規模なプロジェクトには向いていません。大規模プロジェクトになると、作成したプロトタイプを検証・評価する人数も増えるためです。その分、プロトタイプを試用した検証・評価するための日程調整が難しくなります。
また、検証・評価する人数が多いほど、操作感やデザインの改善項目も増えるため、本開発に移行するタイミングに遅れが出るでしょう。そのため、プロトタイプ開発は大規模なプロジェクトには向いていません。
②開発コストが大きくなる
プロトタイプ開発は、開発コストが大きくなるデメリットがあります。最初こそは試作品として最低限の機能のみ搭載しますが、検証や評価、改善を繰り返す工数が増える分だけコストも増えるためです。
開発コストが大きくならないために、試作品を検証・評価をする際のフィードバックは、正確に伝えることが必要になります。
③開発期間が長引きやすい
プロトタイプ開発には、開発期間が長引きやすいデメリットがあります。作成した試作品を、実際に試用した検証・評価・改善を繰り返しながら完成に近づけるためです。
試作品を検証した結果、仕様や追加機能が想定よりも増える可能性があります。そのため、仕様や追加機能が想定よりも増えるほどに、開発期間が長引きやすいです。
プロトタイプ開発が向いているプロジェクト
プロトタイプ開発が向いているプロジェクトは以下の3つです。
- 新規開発のプロジェクト
- 操作感やデザインを重視するプロジェクト
- 発注側のシステム開発経験が少ないプロジェクト
順番に解説します。
新規開発のプロジェクト
新規開発のプロジェクトに、プロトタイプ開発が向いています。新規開発の場合、システムの完成イメージが立っていないことが多いためです。
試作品を用いた検証・評価を繰り返すことで、ユーザーのニーズや仕様を理解しながら開発を進められます。そのため、完成してからの追加機能などの手戻りを抑制することにもつながるでしょう。
操作感やデザインを重視するプロジェクト
ユーザーにとっての操作感やデザインを重視するプロジェクトにも、プロトタイプ開発が向いています。システムの操作感やデザインなどは、狙う顧客層によって異なるためです。
試作品をクライアントやユーザーに試用してもらうことで、ユーザーにヒットするシステム完成に近づけられます。そのため、ユーザーにとっての操作感やデザインを重視するプロジェクトにも、プロトタイプ開発が向いているでしょう。
発注側のシステム開発経験が少ないプロジェクト
発注側のシステム開発経験が少ないプロジェクトにも、プロトタイプ開発が向いています。発注側のシステム開発経験が少ない場合、開発するシステムに対するイメージが漠然になっているためです。
完成品のイメージが漠然としていると、システムのリリースが近づくタイミングでのイメージの相違が発生してしまいます。
そのため、試作品を元に検証・評価を繰り返しながら、完成像を早い段階で共有できるプロトタイプ開発がおすすめです。
プロトタイプ開発の活用事例
プロトタイプ開発の活用事例を紹介します。
- ダイソン『G-Force』
- 任天堂『Nintendo Labo』
詳しく解説します。
①ダイソン『G-Force』
数ある掃除機の中でも第一線を走るダイソン。創設者のダイソン・ジェームス氏は、使うと次第に吸引力が落ちる掃除機に不満を抱いていました。
そこで掃除機を分解して気付いたのは、紙パックの目詰まりが吸引力低下の原因であること。この問題を解決するべく、5年の年月をかけて制作した後に、現在の「吸引力の変わらない掃除機」の開発に成功しました。
②任天堂『Nintendo Labo』
日本のゲーム界を代表する任天堂。
任天堂では、付属の段ボールを使って自分でコントローラーを作る『Nintendo Labo』を開発。自分でコントローラーを作るという新しい発想や、子どもが楽しめるポイントが人気に拍車をかけました。
この『Nintendo Labo』の完成に至るまでにも、子どもにとっての使いやすさや組み立てやすさなど、試行錯誤して完成した経緯があります。
③instagram
今や世界の月間利用者は14億7,800万人、日本国内でも月間利用者数3,300万人を誇る人気SNSのInstagram。しかし、Instagramは元々「Burbn」という位置情報アプリでした。
「Burbn」としてスタートしたものの、思った以上に人気が出なかったため、改善を繰り返した結果「写真の共有機能が人気」ということを発見。写真投稿に特化したSNS「Instagram」へと方向転換をした経緯があります。
まとめ:プロトタイプを理解して、より良い開発に役立てよう!
この記事では、プロトタイプ開発の進め方やメリット、活用事例までを解説しました。
プロトタイプ開発は完成像を早い段階で共有することで、認識のズレによる手戻りの抑制や高い品質のシステムの開発に貢献します。
プロトタイプ開発を正しく理解し、より良い開発に役立てましょう。
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プロトタイプ開発を考えている方は、以下の記事から詳細をご覧ください。