執筆:Swooo編集部/監修:諸藤 哲耀(株式会社アイビス Swooo)
介護DXは、記録ソフトや見守り機器を何にするかより前に、「介護ソフトで足りる業務」と「自法人に合わせた開発が必要な業務」の線引きを間違えないことが重要です。介護は法定帳票と加算要件で業務の形が細かく標準化された業界であり、記録・請求・LIFE提出のような制度に沿った業務は、既製の介護ソフトがすでに高い完成度でカバーしています。一方で、複数事業所を束ねる本部の管理、自法人ならではの条件を織り込んだシフトや送迎の組み方、介護ソフトと他システムのあいだに残る転記——制度が標準化していない部分ほど手作業が残り、ここが個別開発の効く場所になります。
この記事は、複数の事業所や施設を運営する法人の経営層・本部スタッフ・施設長に向けて、介護職員の必要数や2024年度介護報酬改定といった制度の現在地から、つまずきの典型パターン、介護ソフトと個別開発の境界線、進め方の手順、費用の目安までをまとめています。
Swoooの本業は業務システムやAIアプリの受託開発ですが、特定の介護ソフトや見守り機器の販売とは利害関係がありません。そのため本記事は「どこに費用をかけ、どこは既製品で済ませるか」の判断材料に絞って書きます。医療機関側のシステム(電子カルテなど)は医療DXの領域として本記事では扱いません。
介護業務の早見表:介護ソフトで済むか、開発が効くか
先に結論の一覧です。介護事業の主な業務を「既製の介護ソフト・SaaSで足りる」「自法人に合わせた開発が効く」「場合による」の3つに仕分けました。根拠は後の章で順に説明します。
| 業務 | 向いている手段 | 理由 |
|---|---|---|
| 介護記録・ケアプラン作成 | SaaSで十分 | 法定帳票と加算要件に沿って形が決まっており、介護ソフトの完成度が高い |
| 介護報酬請求(国保連への伝送) | SaaSで十分 | 請求ルールが全国一律で、介護ソフト・請求ソフトの本領 |
| LIFEへのデータ提出 | SaaSで十分 | 主要な介護ソフトが提出機能を備えている |
| 勤怠・給与・会計といった管理部門の業務 | SaaSで十分 | 介護に限らず形が共通で、汎用SaaSが出そろっている |
| 見守り機器・インカムの導入 | 既製品で十分 | 専用機器と管理画面がセットの既製品から選ぶのが基本 |
| 1事業所の標準的なシフト作成 | SaaSで十分 | 介護向けのシフト管理サービスが複数ある |
| 複数事業所・複数サービス種別をまたぐ本部管理 | 開発が効く | 稼働率・収支・人員配置をどの軸で見るかが法人ごとに違い、介護ソフトの標準レポートに収まらない |
| 自法人固有の条件を織り込んだシフト・送迎の最適化 | 開発が効く | 職員の資格・利用者との組み合わせ・車両と送迎順といった条件が既製品の想定を超えやすい |
| 介護ソフトと他システムのあいだの転記解消 | 開発が効く | 介護ソフト×勤怠×会計×表計算の組み合わせが法人ごとに違い、既製の連携機能が追いつかない |
| 加算・実績データの集計と提出用データの整形 | 場合による | 1事業所・1ソフトなら標準出力で足りる。複数拠点・複数ソフト混在なら開発の出番 |
| 利用者家族への連絡・情報共有 | 場合による | 既製の家族連絡アプリで足りることが多い。独自の運用ルールが絡むなら開発 |

仕分けのものさしは、制度が形を決めている業務は介護ソフト、制度が形を決めていない業務は開発、です。記録や請求のように全国どの事業所でも同じ形になる業務に開発費を使うのは無駄で、逆に、本部管理や送迎の組み方のように自法人にしかない形の業務を表計算と手作業で回し続けるのは消耗です。
この「標準化された業務はSaaS、固有の業務は開発」という考え方自体は業界を問わず使えるもので、当サイトでは飲食業や物流業も同じ型で整理しています。シフトの組み方は飲食と、送迎・配車の考え方は物流と読み比べると、介護の業務のどこが「自法人固有」なのかが見えやすくなります。
前提:2040年度に約272万人——効率化が「任意の取り組み」から「制度の要件」に変わった
切り分けの話に入る前に、制度の現在地を3つ押さえます。介護のDXが他業界と決定的に違うのは、生産性向上が経営努力の話にとどまらず、介護報酬と運営基準という制度そのものに組み込まれた点です。
介護職員は2040年度に約272万人が必要。2022年度比で約57万人多い
厚生労働省が2024年7月に公表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、必要な介護職員数は2026年度に約240万人、2040年度には約272万人と推計されています。2022年度の職員数は約215万人なので、2040年度までに約57万人の上積みが必要という計算です。
採用だけでこの差を埋めるのは現実的でなく、いまいる職員の時間を記録・転記・集計のような間接業務から解放して、ケアに充てられる時間を増やす——介護分野の「生産性向上」はこの意味で使われています。DXはその手段です。
2024年度介護報酬改定:生産性向上委員会の設置が制度要件になった
2024年度(令和6年度)の介護報酬改定で、施設系・居住系・多機能系・短期入所系の介護事業所を対象に、利用者の安全とサービスの質の確保、職員の負担軽減の方策を検討する委員会(いわゆる生産性向上委員会)の定期開催が義務化されました。3年間の経過措置があり、令和8年度末までは努力義務です。
あわせて「生産性向上推進体制加算」が新設されました(区分Ⅰは月100単位、区分Ⅱは月10単位)。見守り機器などのテクノロジーの活用、委員会の3ヶ月に1回以上の開催、厚生労働省への実績報告が要件に含まれます。つまり、業務改善に取り組む体制を作ること自体が報酬で評価され、委員会の設置は期限つきで義務になる。効率化が任意の取り組みだった時代は、制度の上ではすでに終わっています。
介護情報基盤:2026年4月から順次全国展開
紙でやりとりされてきた介護情報を電子的に共有する「介護情報基盤」も、2026年4月から順次全国展開が始まっています。事業所側から見れば、ケアマネジャー・自治体・他事業所との情報のやりとりが、この先は電子データが前提になっていくということです。
ここで効いてくるのが自社データの状態です。記録が紙のまま、あるいは事業所ごとに別々のソフトに分かれたままだと、制度側が電子連携に進むほど、変換と転記の手作業が増えていきます。制度の動きに先回りする必要はありませんが、「自法人のデータがどこにどんな形であるか」を把握しておくことは、この後のすべての打ち手の土台になります。
介護DXが止まる3つの典型パターン
記録ソフトも見守り機器も入れたのに、職員の残業も本部の集計仕事も減らない。そんな状態に行き着く経路は、おおむね次の3つです。いずれも製品の性能ではなく、導入の目的設定と全体設計の問題です。
パターン1:記録ソフトを入れたのに、紙と二重運用になっている
記録の電子化でいちばん多いつまずきが、紙との併存です。申し送りノートは紙のまま、ヒヤリハット報告は紙の様式のまま、連絡帳は手書きのまま——記録ソフトに入力した内容を紙にも書き写す、あるいはその逆の運用が残ると、職員の手間はむしろ増えます。
原因の多くは、ソフトの導入時に「どの紙をなくすか」を決めていないことです。運営指導で求められる記録の範囲を確認し、紙で残すもの・電子に一本化するものを先に仕分けておかないと、現場は不安から両方を残します。二重運用は職員の実感として「DXで仕事が増えた」に直結し、その後のあらゆる取り組みへの協力を得にくくします。
パターン2:事業所ごとにバラバラに導入して、本部でデータがつながらない
特別養護老人ホームはA社の記録ソフト、デイサービスはB社、訪問介護は表計算——事業所や施設ごとに現場の判断で導入を重ねると、各事業所の業務はそれぞれ楽になる一方、法人本部には「毎月、全事業所のCSVと表計算を集めて突き合わせる」集計仕事が積み上がります。稼働率・収支・残業時間を法人横断で見ようとするたびに人手の集計が必要で、数字が揃うのは翌月半ば。意思決定はいつも1ヶ月遅れになります。
多拠点法人の介護DXでいちばん値打ちがあるのは、実は各事業所のソフト選びではなく、この本部でデータを束ねる層の設計です。
パターン3:加算の要件を満たすためだけの導入で、現場が使わない
加算や補助金は導入の追い風ですが、「要件を満たすこと」が目的になると、機器は入ったのに使われない状態が生まれます。見守り機器を設置したものの通知の運用ルールを決めておらず、結局これまで通りの定時巡回を続けている、という形が典型です。
加算の設計自体が、機器の導入だけでなく委員会での継続的な業務改善とセットになっているのは前章で見たとおりです。導入の起点を「どの業務の、誰の、何分を減らすか」に置き、加算と補助金は結果としてついてくるものと位置づけたほうが、実際には加算の要件も満たしやすくなります。
3つに共通する根っこは、ツール単位で考えて、業務と法人全体の設計を飛ばしていることです。次章で、どこまでが既製品の守備範囲で、どこからが個別開発の領分かの境界線を引きます。

どこまで介護ソフトで済むか:正直な切り分け
最初に正直に書いておくと、介護は他業界と比べても、既製のSaaSで足りる範囲が広い業界です。法定帳票・加算要件・請求ルールが全国一律で決まっているため、ソフト側が業務の形を作り込みやすいからです。Swoooは開発会社ですが、介護ソフトで足りる業務に個別開発を勧めることはしません。
介護ソフト・既製SaaSに任せてよい領域
介護記録とケアプラン、介護報酬請求(国保連伝送)、LIFEへのデータ提出。この3つは制度が様式と手順を決めている業務で、既製の介護ソフトの本領です。ここを自前で開発するのは、制度改定のたびに改修費を払い続けることを意味するので、選択肢に入れるべきではありません。2021年度の介護報酬改定から運用が始まったLIFE(科学的介護情報システム)への対応も、主要な介護ソフトが提出機能を備えています。
見守り機器・インカム・勤怠・給与・会計も同様に既製品から選ぶ領域です。1事業所の標準的なシフト作成も、介護向けのシフト管理サービスで足りることが多いでしょう。
ただし選定時に、後から効いてくる確認項目がひとつあります。データを外に取り出す口があるかです。ケア記録・実績・請求データをCSVやAPIで取り出せないソフトを選ぶと、多拠点の本部管理や他システムとの連携を考えた段階で、そのソフト自体が行き止まりになります。比較表に「データ出力の形式と範囲」の1行を必ず加えてください。
個別開発が効く3つの領域
一方で、介護ソフトを何本並べても手作業が残り続ける場所が3つあります。制度が標準化していない、つまり法人ごとに形が違う業務です。
- 複数事業所・複数サービス種別をまたぐ本部管理:稼働率・収支・人員配置・残業時間をどの単位で束ねてどう見るかは、法人の組織構造そのものです。特養とデイと訪問で別々のソフトを使っていても、そこからデータを集めて法人共通の管理画面に束ねる仕組みは開発で作れます。各事業所のソフトを無理に統一するより、束ねる層を足すほうが現場への負担が小さいことも多い領域です
- 自法人固有の条件を織り込んだシフト・送迎の組み方:夜勤の資格要件、職員と利用者の組み合わせの配慮、車両の台数と乗降のしやすさ、道路事情を踏まえた送迎順。汎用のシフト・配車サービスはここまで細かい自法人の条件を想定していないため、結局ベテランの手作業に戻りがちです。条件を明文化してシステムに載せると、特定の職員に依存しない組み方に変えられます
- 介護ソフトと他システムの「あいだ」の転記解消:記録ソフトの実績を請求用に打ち直す、シフト表から勤怠システムへ手で写す、複数ソフトの数字を月次報告の表計算にまとめ直す。1件ずつは数分でも、毎日・全事業所で積むと大きな時間です。どの組み合わせを使っているかが法人ごとに違うので、既製の連携機能ではカバーされにくく、開発の費用対効果が特に測りやすい場所でもあります
転記の解消は、表計算業務の限界の話と地続きです。どの時点で表計算からシステムに切り替えるべきかはExcel業務のシステム化の記事で詳しく扱っています。
「場合による」領域と、AIの現実的な使いどころ
加算・実績データの集計は、1事業所・1ソフトの範囲なら標準機能で足ります。個別開発を検討する意味が出るのは、複数拠点・複数ソフトのデータを揃えて提出用・分析用に整形する必要がある場合です。利用者家族への連絡も、既製の家族連絡アプリでまず試すのが順序で、独自の運用ルールや既存システムとの連動が必要になってから開発を考えれば十分です。
AIの使いどころとしては、記録まわりの入力支援(音声からの下書き起こしなど)は介護ソフト側の機能拡充が速い領域なので、まず使っているソフトの標準機能を確認するのが先です。個別開発が向くのは、就業規則・手順書・過去のヒヤリハット報告を参照して職員の質問に答える社内向けのAIチャットボットや、自法人のデータを使った集計・要約の自動化です。前者の作り方は社内AIチャットボットの記事で解説しています。
結論として、介護ソフトと個別開発は競合しません。制度が形を決めている業務は介護ソフトに預け、法人にしかない形の業務——本部管理・シフトと送迎・すき間の転記——だけを開発で埋める。この分担が、介護DXの費用対効果をいちばん高くします。
介護DXの進め方:5つのステップ
切り分けを実際の計画に落とす手順です。前のステップの成果物を次のステップが使うので、順番どおりに進めるのが結局いちばん速くなります。
| ステップ | やること | アウトプット |
|---|---|---|
| 1. 業務と転記の棚卸し | 誰が・何を・どこからどこへ書き写しているかを事業所ごとに洗い出す | 業務×システムの一覧と転記の発生箇所 |
| 2. 仕分け | 各業務を介護ソフト(SaaS)/開発/現状維持に分類する | 切り分け表と「既製で足りない理由」の言語化 |
| 3. 転記の解消から着手 | 二重入力・打ち直し・集計のやり直しの解消を優先する | 着手順と概算予算 |
| 4. 1事業所で検証 | 対象を絞って効果を工数の数字で確かめる | 検証結果と横展開の判断 |
| 5. 運用体制の設計 | 生産性向上委員会に改善サイクルを載せ、保守と改修の役割分担を決める | 運用ルールと体制図 |

ステップ1:業務と転記の棚卸し——「書き写し」を数える
介護現場の場合、聞くべき質問は「毎日・毎週、何かを書き写したり打ち直したりしていないか」です。記録ソフトに入れた実績の請求用の打ち直し、紙の申し送りとソフトの二重記録、シフト表から勤怠への転記、本部向け月次報告の表計算への集計し直し。この「書き写し」の一覧が、システムのすき間の地図になります。
あわせて、いま使っているソフト・機器・表計算の一覧を事業所ごとに作ります。多拠点法人では、本部が把握していないツールが現場に入っていることが珍しくありません。
ステップ2:介護ソフト/開発/現状維持に仕分ける
棚卸しの結果を、冒頭の早見表に当てて3つに塗り分けます。開発候補に入れた業務には「既製で足りない理由」を一文添えてください。「送迎の組み方が特殊だから」では足りません。「車いす対応車が2台しかなく、乗車位置と到着順の制約があるため、利用者の組み合わせを人が調整している」という粒度まで下ろせると、後の要件定義と見積もりの精度が大きく変わります。
このとき「現状維持」も立派な結論です。紙のほうが速い業務を無理に電子化する必要はありません。
ステップ3:転記の解消から着手する
費用対効果がいちばん測りやすいのが転記の解消です。「毎月延べ何時間の書き写しが消えるか」を導入前に数えられるため、投資判断が明確になり、現場にも効果が見えやすい。最初の成功体験をここで作ると、その後の取り組みへの職員の協力が得やすくなります。
本部の管理画面やシフト・送迎の最適化のような大きめの開発は、転記解消でデータの流れが整った後のほうが、設計も投資判断も確度が上がります。
ステップ4:1事業所で検証してから広げる
全事業所への一斉導入は避け、1事業所・1業務に絞って検証します。記録まわりなら、夜勤帯の記録にかかる時間が何分減ったか。送迎なら、組み直しにかかる時間と直前変更への対応時間がどう変わったか。数字で確認できたら横展開し、効果が出なければ小さな検証費用で止められます。
検証先の事業所は、いちばん協力的な管理者のいる所を選んでください。最初の1件は技術検証であると同時に、法人内への説得材料づくりでもあります。
ステップ5:生産性向上委員会に改善サイクルを載せる
介護には、業務改善を続ける会議体を制度が用意してくれているという、他業界にない利点があります。生産性向上委員会です。検証結果の確認、次の対象業務の選定、機器やシステムへの現場の不満の吸い上げを委員会の議題に載せれば、DXの推進体制を別に作る必要がありません。加算を算定する場合は3ヶ月に1回以上の開催が要件なので、そのリズムに検証サイクルを合わせるのが実務的です。
あわせて、システムの保守と小さな改修を外部と社内のどちらで担うかも決めておきます。将来的に社内で直せる範囲を増やしたい場合の考え方は開発内製化の記事で扱っています。
個別開発の費用感と補助金
個別開発の費用は、対象業務の範囲と開発手法で大きく変わります。介護向けだから特別に高いということはなく、業務システム一般の相場が目安になります。
| 開発の内容 | ノーコード開発 | スクラッチ開発 |
|---|---|---|
| 本部管理・シフト・送迎などの業務管理システム | 50万〜200万円 | 500万〜1,000万円 |
| AIアプリ(LLM連携) | 200万〜600万円 | 1,000万〜4,000万円 |
介護の題材に当てはめると、複数事業所の実績・稼働率を束ねる本部の管理画面、送迎表の作成支援、介護ソフト間のデータ連携ツールは「業務管理システム」の行が目安です。手順書やヒヤリハット報告を参照して答える職員向けのAIチャットボットは「AIアプリ」の行に当たりますが、LLMのAPIを呼び出す小規模な構成であれば50万〜300万円程度から作れます(自法人の文書一式を参照させる本格的な業務組み込みは100万〜1,000万円程度)。
本体以外では、要件定義が全体の10〜15%程度、稼働後の保守がノーコードで月3万〜20万円程度、スクラッチで月10万〜100万円程度かかります。見積もりの内訳の読み方はWebアプリ開発の費用相場の記事で詳しく解説しています。
投資判断の物差しは「その転記・集計を人が続けた場合の総コスト」との比較です。ステップ1で数えた書き写しの時間を時給換算し、開発費と保守費の数年分と並べます。介護の場合はもうひとつ、その手作業が特定の職員に依存していないかも同じ天秤に載せてください。送迎表を組めるのがベテラン1人だけ、という状態のリスクは、工数の数字には表れません。
補助金:介護テクノロジー導入・定着支援事業と省力化投資補助金
介護分野には、見守り機器・ICTの導入を対象にした都道府県実施の補助事業(介護テクノロジー導入・定着支援事業)があります。ただし補助率・上限額・対象経費・公募期間は都道府県ごとに異なるため、必ず自県の最新の公募要領を確認してください。
個別開発との相性で見ると、中小企業向けの中小企業省力化投資補助金(一般型)は、補助率が中小企業で1/2(賃上げ要件を満たすと2/3)、補助上限が類型により750万〜8,000万円で、外部の開発会社と作る専用システムが対象に含まれます。一方、デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)は登録済みITツールの導入が前提のため、オーダーメイド開発は実務上対象外になりやすい制度です。
いずれも審査制で、申請すれば必ず採択されるものではありません。年度内でも要件が変わるため、計画の初期に最新情報を確認してください。制度の全体像はシステム・AI開発に使える補助金の記事で整理しています。
発注先の選び方:介護の制度要件を設計に落とせるか
介護の業務システムは、画面の数よりも「制度と現場の制約をどれだけ設計に織り込めるか」で出来が決まります。発注前の面談で、次の5点を確かめてください。
- 介護保険制度の枠組みを理解しているか:加算の要件、法定帳票、運営指導で求められる記録の範囲。制度の細部まで知っている必要はありませんが、「加算要件が変わったら誰がどう追従するか」に答えられない相手は避けるべきです
- 要配慮個人情報を前提にした設計ができるか:介護記録は心身の状態を含むため、個人情報保護法上の要配慮個人情報に当たります。アクセス権限の設計、退職者のアカウント処理、データの保管と削除の方針を具体的に語れるかを確認します
- 介護ソフトとの連携方式を具体的に語れるか:いま使っているソフトからCSV・APIでどうデータを取り出すか、取り出せない場合の代替案は何か。ケアプランデータ連携のような業界の仕組みも含めて、方式名で説明できる相手かどうかが分かれ目です
- 現場の入力負担を増やさない設計を出してくるか:夜勤帯や送迎中に使うシステムは、事務室のパソコン前提では機能しません。誰が・いつ・どの端末で触るかを最初に聞いてくる会社は、業務システムの経験値が高い傾向があります
- 段階を刻む提案が出てくるか:初回から全事業所一括の開発を持ちかけられたら立ち止まってください。1事業所での検証から広げる計画を自分から出すかどうかを見ます
あわせて、商談に持ち込むと話が速くなる資料も挙げておきます。新しく作る必要はなく、いま本部と事業所にあるものを集めるだけで足ります。
- 事業所の一覧:サービス種別・定員・職員数
- 使っているシステムの一覧:介護ソフト・勤怠・会計・見守り機器の製品名と導入時期
- シフト表・送迎表の実物:表計算の数式と手書きの調整跡が、業務ルールの複雑さをそのまま物語ります
- 本部の月次集計資料:どの数字を、どこから、何時間かけて集めているか
- ステップ1の棚卸し結果:転記の発生箇所の一覧
Swoooは、ibisPaint(世界累計5億ダウンロード超)を手がける株式会社アイビス(東証グロース上場・証券コード9343)のシステム受託開発サービスです。Bubble公式Goldパートナー(日本1位)として、業務管理システムからAI連携アプリまで業種を問わず開発してきました。管理画面や業務フローをノーコードで速く組み、データ連携やAI処理のような重い部分をコードに切り出す構成を得意としています。Claude Codeを組み込んだ開発体制はAI駆動開発の記事で紹介しています。
よくある質問
Q. 医療DXと介護DXはどう違いますか?
医療DXは、電子カルテやオンライン診療、電子処方箋といった医療機関側の仕組みを対象にした領域で、医療法や診療報酬の制度に沿って進むものです。本記事の介護DXは、介護保険サービスの事業運営——記録・請求・シフト・送迎・LIFE対応・本部管理——を対象にしています。
医療と介護の情報連携は国の制度整備が進んでいる途上の領域なので、個々の事業者がシステム開発で先回りする場所ではありません。事業者側でできる準備は、自法人のデータを取り出せる状態にしておくことです。
Q. いまの介護ソフトに不満があります。乗り換えと個別開発のどちらを考えるべきですか?
不満の中身で分かれます。記録や請求そのものの使い勝手への不満なら、介護ソフト同士の乗り換え比較が先です。一方、「ソフト自体は問題ないが、そこから先の集計・転記・本部報告がつらい」という不満なら、乗り換えても解決しません。それはソフトの外側、システムのすき間の問題だからです。
乗り換えには記録データの移行と職員の再教育という大きなコストが伴います。不満の発生場所がソフトの中か外かを、先に切り分けてください。
Q. LIFEへの対応で個別開発が必要になることはありますか?
提出自体は介護ソフトの標準機能で足りるのが基本で、そのために開発するものではありません。開発の検討余地が出るのは、複数拠点で別々のソフトを使っていてデータの形式がバラバラな場合や、提出データを自法人の分析にも使い回したい場合の、データを揃えて整形する部分です。
この場合も主役は介護ソフトで、開発はそのあいだを埋める脇役という位置づけが健全です。
Q. 補助金は個別開発にも使えますか?
制度によります。都道府県の介護テクノロジー導入・定着支援事業は見守り機器やICT機器の導入が中心で、対象経費の範囲は都道府県ごとに異なります。オーダーメイドの業務システム開発との相性がよいのは中小企業省力化投資補助金(一般型)で、外部の開発会社と作る専用システムが対象に含まれます。
いずれも審査制であり、要件・公募状況は変わるため、計画段階で最新の公募要領を確認してください。詳しくは補助金の記事にまとめています。
Q. 1〜2事業所の規模でも、個別開発を検討する意味はありますか?
多くの場合、まだ介護ソフトと既製SaaSの範囲で足ります。この規模で先にやるべきは、記録の電子化と紙の二重運用の解消、そしてデータを取り出せるソフトを選んでおくことです。
開発が視野に入るのは、事業所が増えて本部の集計が重くなったときや、送迎・シフトの調整が特定の人に依存し始めたときです。検討した結果「今は既製品で十分」という結論になるなら、それが正しい切り分けです。
まとめ:制度が決めた形の外側に投資する
介護DXの進め方のポイントを整理します。
- 介護職員の必要数は2040年度に約272万人。2022年度の約215万人から約57万人の上積みが必要(厚生労働省・第9期介護保険事業計画に基づく推計)。2024年度介護報酬改定では生産性向上推進体制加算が新設され、生産性向上委員会の設置は経過措置(令和8年度末まで努力義務)を経て義務化される。効率化は制度の要件になった
- 記録・請求・LIFE提出のような制度が形を決めた業務は、既製の介護ソフトで十分。自前開発の対象にしない
- 開発が効くのは、複数事業所をまたぐ本部管理、自法人固有の条件を織り込んだシフト・送迎、介護ソフトと他システムのあいだの転記解消という3領域
- 進め方は、書き写しの棚卸し → 介護ソフト/開発の仕分け → 転記の解消から着手 → 1事業所で検証 → 生産性向上委員会に改善サイクルを載せる、の順
- 投資判断は「その手作業を人が続けた場合の総コスト」と「特定の職員への依存リスク」の両方で行う
介護は、SaaSで足りる範囲が広い業界です。だからこそ、残った手作業——本部の集計、送迎表の調整、システム間の書き写し——は「既製品が存在しない業務」である可能性が高く、そこは自法人に合わせた仕組みづくりが正面から効きます。制度が形を決めている業務と、自法人にしか形がない業務の境界線を引くことが、介護DXの投資判断のすべての出発点です。
自法人の場合はどこまでが介護ソフトで済み、どこからが開発なのか。シフト表や月次集計の実物を眺める段階からで構いませんので、Swoooにご相談ください。検討して「既製品で十分」とわかったなら、その判断も含めてお返しします。切り分けを誤らないことが、いちばんの節約だからです。
関連ページ:飲食店DXの進め方/物流DXの進め方/小売DXの進め方/Excel業務のシステム化/Webアプリ開発の費用相場