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飲食店DXの進め方|SaaSで足りる領域と個別のシステム開発が効く領域の切り分け方

執筆:Swooo編集部/監修:諸藤 哲耀(株式会社アイビス Swooo)

飲食店DXの進め方|SaaSで足りる領域と個別のシステム開発が効く領域の切り分け方

執筆:Swooo編集部/監修:諸藤 哲耀(株式会社アイビス Swooo)

飲食店のDXは、「どのツールを入れるか」より先に「どの業務をSaaSに任せ、どの業務を自社に合わせて開発するか」を切り分けるところから始めると失敗しにくくなります。モバイルオーダーや予約管理、POSレジのように既製のSaaSが成熟していて、導入すればそのまま効果が出る業務がある一方で、多店舗展開の本部管理や、会員制・コース制といった業態特有の仕組みのように、既製ツールでは手が届きにくく、自社に合わせたシステム開発が効く業務もあるからです。

この記事では、複数店舗を展開する飲食企業の経営層・本部管理部門、そして飲食領域で新しいサービスを検討している事業者に向けて、飲食業の人手不足と労働生産性の現在地を公的データで押さえたうえで、飲食DXの主要領域、SaaSで足りる領域と個別開発が効く領域の切り分け、費用感と進め方までを一通り解説します。
なお、この切り分けの基準に業界標準の定義があるわけではありません。Swoooが飲食領域を含む開発相談を受けてきた中での経験則として読んでください。

目次

飲食店業務別の早見表:SaaSで済むか、開発が効くか

最初に結論の早見表を示します。飲食店の業務ごとに、既製のSaaSで十分か、自社に合わせた開発が効くかを整理したものです。詳しい理由は後の章で解説します。

業務向いている手段理由
注文受付(モバイルオーダー・券売機)SaaSで十分飲食向けSaaSが成熟しており、標準機能で大半をカバーできる
予約管理・グルメサイトとの在庫連携SaaSで十分予約SaaSが充実。複数サイトの空席一元管理も標準機能の範囲
会計・売上管理(POSレジ)SaaSで十分クラウドPOSの完成度が高く、開発する理由がほぼない
シフト・勤怠管理SaaSで十分汎用・飲食特化とも既製品が豊富で、単体業務として完結しやすい
単店舗〜数店舗の原価・発注管理SaaSで十分標準的な原価管理ならSaaSの想定範囲に収まる
多店舗本部の一元管理(店舗別の権限・価格・集計)場合による店舗数が少なければSaaSで足りる。店舗ごとの例外が多いなら開発が効く
業態特有の予約・課金(コース制・会員制・サブスク)開発が効く標準SaaSが想定しない課金・予約ロジックはカスタマイズの限界に当たりやすい
複数SaaSにまたがるデータの統合・分析開発が効く予約・POS・シフトが別ベンダーだと、横断集計は自前でつなぐ必要がある
自社アプリ・自社会員基盤の構築開発が効く会員体験の設計そのものが差別化要素で、既製の型に収まりにくい

大づかみに言えば、「どの店でも同じ形の業務」はSaaS、「自社にしかない形の業務」は開発という切り分けです。単店舗や標準的なオペレーションの店であれば、この表の上半分だけで話が完結します。つまり、まずSaaSの導入で十分です。
一方、店舗数が増えて店舗ごとの例外が積み重なってきた企業や、業態そのものに独自性がある企業ほど、表の下半分の悩みが増えていきます。この構造を踏まえずに進めると、SaaSで済む領域に開発費を投じたり、逆にツールを何本も契約したのに本部の集計作業が手作業のまま残ったりします。

前提:飲食業の人手不足と生産性を数字で押さえる

切り分けの話に入る前に、なぜ今このテーマなのかを公的データで押さえておきます。飲食業のDXが語られる背景には、他産業と比べても突出した人手不足と、労働生産性の低さという2つの構造問題があります。

店長の有効求人倍率は10.0倍:現場より先に「店を任せられる人」が枯渇している

まず産業としての規模です。飲食業の事業所数は55.4万か所、従業者数は405.2万人で、全産業の7.0%を占めます(経済産業省「令和3年経済センサス活動調査」)。そのうちパートタイム労働者の比率は78%と、全産業平均の31%に対して突出して高い構成です(厚生労働省「毎月勤労統計調査」令和6年)。
つまり飲食業は、雇用の受け皿として大きい一方、正社員の層が薄く、少数の社員が多数のパート・アルバイトを束ねて店を回す構造になっています。

その構造の弱点が、求人倍率にはっきり表れています。令和5年度の有効求人倍率(厚生労働省「職業安定業務統計」をもとに農林水産省が算出)は次のとおりです。

職種有効求人倍率(令和5年度)
全産業平均1.3倍
飲食物調理の職業2.9倍
ウェイター・ウェイトレス・配膳人5.0倍
飲食店店長10.0倍

注目すべきは、調理や接客のスタッフ以上に、店長という店舗管理職の倍率が10.0倍と桁違いに高い点です。求人10件に対して求職者が1人しかいない計算で、「店を任せられる人」が最も採れない人材になっています。
この数字は、多店舗展開する企業ほど重くのしかかります。出店のボトルネックが物件でも資金でもなく店長候補になっている、という状況が統計にそのまま出ているからです。少ない店長で多くの店舗を見られるようにする、店長がいなくても回る業務の形に変える、という方向の投資が避けられなくなっています。

地域差も見ておく価値があります。飲食店店長の有効求人倍率を都道府県別に見ると、令和6年10〜12月の全国平均4.28倍に対して、愛媛7.89倍、福井7.86倍、新潟7.45倍など、地方圏でより高い水準になっています(前掲の省力化投資促進プランより)。地方で展開する企業ほど、店舗管理を人の採用だけに頼る戦略は成り立ちにくくなっているということです。
また、飲食業は資本金5,000万円未満の中小事業者が98%を占める産業でもあります(経済産業省「2023年経済構造実態調査」)。大手のようにIT部門を抱えて自前で解決できる企業はごく一部で、大多数の企業にとっては、SaaSと外部の開発会社をどう使い分けるかが実務上の論点になります。

労働生産性は219万円:全産業平均917万円との4倍超の開き

もう1つの構造問題が労働生産性です。従業員1人あたりの付加価値額で見ると、飲食・サービス業は219万円で、全産業平均の917万円と4倍超の開きがあります(経済産業省「2023年企業活動基本調査確報」、2022年度実績)。
時系列で見ても厳しい状況です。経済産業研究所(RIETI)のJIPデータベースによれば、飲食サービス業の労働生産性は2000年を100とした指数で2021年に64.6まで低下しており、全産業が126.2まで上昇したのと対照的に、他産業と乖離しながら下がり続けてきました。

この状況を受けて、政府は2025年6月に農林水産省・厚生労働省の連名で「省力化投資促進プラン(飲食業)」を公表し、飲食業の労働生産性を2029年度までに35%向上させるという目標(2024年度基準)を掲げました。調理ロボットやモバイルオーダーといった省力化投資を、補助金も含めて後押しする政策パッケージです。
人手は採れない、生産性の低下は20年続いてきた、そして国が投資促進の旗を振っている。飲食店にとって業務のシステム化は、やるかやらないかの選択肢ではなく、事業を続けるための前提と捉えるべき局面に来ています。

飲食DXの主要領域:政府プランの3分類で整理する

ひと口に飲食店のDXと言っても対象は幅広いため、まず全体像を整理します。前述の省力化投資促進プランは、飲食業の業務プロセスを「調理」「接客」「店舗管理」の3つに分けて省力化投資を整理しています。本記事ではこの3分類を土台に、各領域に該当する具体的なシステム・ツールをSwoooの整理で補って見ていきます。

分類主な投資・システムの例性格
調理調理ロボット、食器洗浄ロボット、スチームコンベクションオーブン、自動フライヤー設備投資が中心。機器の導入で完結しやすい
接客モバイルオーダー、セルフレジ・自動精算機、配膳・下膳ロボットSaaS・既製品が成熟している領域
店舗管理予約管理、POS・売上管理、シフト・勤怠、在庫・発注、原価管理、デリバリー連携SaaSが豊富な一方、多店舗・独自業態では個別開発の相談が生まれやすい領域

調理の省力化は厨房機器・ロボットという設備投資の話が中心で、システム開発の出番は限定的です。接客と店舗管理がいわゆる「飲食店のシステム」の領域で、モバイルオーダー、予約管理、POS、シフト管理、原価管理、デリバリー連携と、業務ごとに専用のSaaSが出そろっています。
本記事で扱う「SaaSか開発か」の切り分けが問題になるのは、主にこの店舗管理の領域、そして複数の領域をまたぐデータ活用の場面です。

大手チェーンの事例に見る方向性

大手チェーンがどこに投資しているかは、方向感をつかむ参考になります。情報処理推進機構(IPA)が運営する「DX SQUARE」で紹介されている飲食業の事例には、次のようなものがあります。

  • すき家:POS・モバイルオーダー・デリバリーを組み合わせた注文チャネルの整備
  • トリドールホールディングス:オンプレミスの社内システムをクラウドへ移行し、業務のアウトソーシングと組み合わせて本部業務を軽量化
  • FOOD & LIFE COMPANIES(スシロー):皿のICタグから得たデータによる需要予測と廃棄削減
  • すかいらーくホールディングス:配達員向けアプリの整備やブランド横断の共同デリバリー

共通しているのは、単発のツール導入で止まらず、注文・売上・需要のデータを経営判断や業務設計につなげている点です。スシローの需要予測はその典型で、ICタグという現場のデータ取得と、それを予測・廃棄削減に使う仕組みが一体になっています。
もっとも、これらは自社でIT部門を持つ大手の話です。中堅規模の飲食企業が同じことをやろうとしたとき、既製のSaaSでどこまで行けて、どこから自社に合わせた開発になるのか。この切り分けが本記事の主題です。

AIの位置づけ:予測と非定型業務の自動化

3分類とあわせて押さえておきたいのが、AIの位置づけです。AIは調理・接客・店舗管理のどれか1つに属するというより、3分類を横断して効く道具と捉えるのが実態に合います。
飲食業でAIの適用先として挙がりやすいのは、たとえば次のような業務です。

  • 需要予測:曜日・天候・イベントと売上実績から来客数や品目別の出数を予測し、仕入れ量やシフトの計画に反映する。スシローのICタグ活用のように、廃棄削減と機会損失の抑制の両方に効く
  • 仕入れ帳票の読み取り:仕入先ごとに書式が異なる納品書・請求書を、LLM(大規模言語モデル)とOCRの組み合わせで読み取り、原価データとして自動集計する。転記という定型作業そのものをなくす方向の自動化
  • 問い合わせ・予約対応の下処理:電話やメッセージで届く予約変更・キャンセル・質問の内容をAIが仕分けし、定型的なものは自動応答、判断が必要なものだけ人に回す

数年前まで、この種のAI活用は大手の投資領域でした。現在はLLMのAPIを既存の業務システムに組み込む構成が一般化し、中堅規模の企業でも現実的な予算で個別開発の対象になっています(費用感は後述します)。バックオフィス業務へのAI組み込みの進め方は業務AI化支援でも解説しています。

飲食店のDXでよくある3つのつまずき

切り分けの各論に入る前に、飲食店のシステム導入・開発の相談でよくお聞きする「つまずきの型」を3つ挙げておきます。どれも特定のツールや会社の問題ではなく、進め方の順序から生まれる構造的なものです。

つまずき1:目的が「ツールを入れること」になっている

モバイルオーダーを導入したのに、ホールの人員配置も注文ミスへの対応フローも以前のまま、というケースです。ツールの導入自体がゴールになると、業務の形が変わらないまま月額費用だけが増えていきます。
防ぎ方はシンプルで、導入前に「この仕組みが入ったら、どの作業を誰がやらなくなるのか」を具体的に決めておくことです。やらなくなる作業を言語化できないツールは、導入の優先度を下げて構いません。IPAのDX SQUAREでも、デジタルツールの導入そのものではなく、業務や顧客体験の変化につなげることがDXの本質だと繰り返し示されています。

つまずき2:店舗ごとの例外を「あとで考える」にして、全店展開で止まる

パイロット店舗ではうまく回ったのに、全店に広げた途端に例外が噴き出すパターンです。直営とフランチャイズで会計ルールが違う、駅前店と郊外店でメニューと価格が違う、一部の店だけ席数の関係で予約の取り方が特殊、といった店舗ごとの事情は、多店舗の飲食企業なら必ずと言っていいほど存在します。
例外の存在自体は悪いことではありません。問題は、例外の棚卸しをせずに標準化を進めてしまうことです。展開前に「どの店にどんな例外があるか」を一覧にし、標準に寄せる例外と、仕組み側で吸収すべき例外を仕分けしておくと、この種の手戻りは大きく減ります。仕組み側で吸収すべき例外が多いと分かった時点で、SaaSの標準機能で足りるか、個別開発が要るかの判断材料にもなります。

つまずき3:SaaSの本数だけが増えて、データがつながらない

業務ごとに良いSaaSを選んでいった結果、予約・POS・シフト・発注・デリバリーで管理画面が5つ6つになり、それぞれのデータが孤立している状態です。個々の選定はどれも正しかったのに、全体としては「店の数字の全体像がどこにもない」という逆説的な結果になります。
これは選定の失敗というより、単体業務の効率化を積み重ねた先に必ず現れる段階と捉えるほうが正確です。だからこそ、この段階に達した企業への処方箋は「もっと多機能なツールを探す」ことではなく、データをつなぐ層を設計することになります。詳しくは後述の切り分け論で扱います。

どこまでSaaSで済むか:単店舗〜数店舗なら、まずSaaSで十分

先に、SaaSで十分な領域をはっきりさせておきます。開発会社の記事だからといって開発に誘導せず、正直に切り分けます。

モバイルオーダー、予約管理、POSレジ、シフト・勤怠管理。この4つは飲食向けSaaSが特に成熟している領域です。どの店でもやることがほぼ同じ業務だからこそ、多くの店舗の利用を通じて既製品が磨かれており、月額数千円〜数万円で導入できるものが大半です。
この領域をわざわざ開発するのは費用対効果に合いません。すでにSaaSを導入済みなら、そのまま使い続けるのが合理的です。単店舗〜数店舗で標準的なオペレーションの店であれば、DXの実務は「どのSaaSを選ぶか」の比較検討で完結することがほとんどで、個別のシステム開発を検討する必要はまずありません。

見分け方の目安は、建設業や物流業など他業種のシステム相談でも共通ですが、「その業務のやり方を同業他社に説明したとき、ほぼ同じですねと言われるかどうか」です。テーブルで注文を受けて会計する流れや、シフトを組んで勤怠を締める流れは、店が違っても大枠は変わりません。こうした業務は既製品の設計思想とぶつからないため、SaaSの導入がそのまま効率化につながります。
加えて、券売機や配膳ロボットのような機器系の省力化投資は、後述する補助金のカタログ注文型の対象にもなっており、既製品を選ぶこと自体が支援制度と相性の良い選択になっています。

SaaSを選定する段階で1つだけ将来に効く観点を挙げるなら、APIの公開状況です。機能や料金の比較に加えて、「このSaaSのデータを外部から取得できるか」「他システムとの連携実績があるか」を確認しておくと、後で店舗が増えてデータを横断集計したくなったときの選択肢が大きく変わります。
API連携できるSaaSなら、既存の運用を変えずにデータ基盤を後付けできます。逆にデータの出口がないSaaSは、将来の統合時に手作業のCSV出力が残り続ける原因になります。単店舗の時点では気にならない差ですが、多店舗化を見据えるなら選定基準に入れておく価値があります。

SaaSで吸収しきれない4つの領域:典型的な相談パターン

一方で、SaaSを入れても手作業や分断が残り続ける領域があります。ここから先は、公的な統計や定義がある話ではなく、Swoooが開発相談を受けてきた中で見えてきた典型パターンの整理です。飲食業に限らず、多店舗・多拠点でSaaSを使い込んできた企業に共通する構造でもあります。

領域1:多店舗本部の一元管理

店舗ごとに仕入れ先や価格、メニュー構成、権限設計が異なるチェーンでは、「SaaSの管理画面を店舗の数だけ開いて、数字をスプレッドシートに転記して本部の資料を作る」という作業が発生しがちです。SaaSの多くは単店舗〜数店舗の標準運用を前提に設計されているため、店舗横断の集計軸や店舗別の例外ルールが増えるほど、標準機能の外側に業務がはみ出していきます。
店舗数が増えたタイミングで、本部横断のダッシュボードや店舗別の権限管理を自社に合わせて開発したい、という相談が典型的です。店長の採用が難しい現状(前述の求人倍率10.0倍)を踏まえると、少ない管理職で多くの店舗を見るための本部側の仕組みは、今後さらに重要になる領域です。

本部の一元管理で特に価値が出やすいのは、異常の早期発見です。全店の数字が月次のスプレッドシートでしか集まらない体制では、特定店舗の原価率の悪化や売上の変調に気づくのが翌月になります。日次でデータが集まる仕組みがあれば、スーパーバイザーが「今週数字が動いた店」から優先的に回る、という動き方に変えられます。
この可視化は、店舗を束ねる側の負荷を下げると同時に、店長経験の浅い人材でも数字を根拠に店を運営しやすくする効果もあります。管理職の採用難という前提に対して、仕組み側から打てる手の代表例です。

領域2:業態特有の予約・課金・在庫ロジック

コース制で仕入れと予約が連動する業態、月額課金の会員制レストラン、時間貸しと飲食を組み合わせた業態など、標準的な「席を予約して、注文して、会計する」の型に収まらないオペレーションを持つ店は、既製SaaSのカスタマイズ限界に当たりやすくなります。
予約SaaSは席と時間の管理は得意でも、「会員ランクによって予約可能枠と価格が変わる」「予約時点で仕入れ数量が確定する」といった業態固有のロジックまでは踏み込めないことが多いためです。業態の独自性がそのまま競争力になっている企業ほど、その独自性を支える仕組みを既製品に合わせて崩すわけにはいかず、予約・課金の中核部分を自社に合わせて開発したいという相談になりやすい領域です。

判断の目安として、標準SaaSの運用で「本来のルールを簡略化して登録し、差分を手作業やスプレッドシートで補正している」状態が続いているなら、それはカスタマイズの限界を既に越えているサインです。補正作業は日々の負荷になるだけでなく、予約と仕入れ、課金と会計の数字が微妙に食い違う原因にもなります。
この場合の開発は、業態のロジックそのものをデータ構造として設計し直すことが中心になります。画面の見た目より先に、「この業態では何が予約の単位で、何が課金の単位か」を定義する要件定義の質が結果を左右します。

領域3:複数SaaSの分断(データのサイロ化)

予約は予約SaaS、会計はクラウドPOS、シフトはシフトSaaS、デリバリーは各プラットフォームの管理画面。1つひとつは便利でも、ベンダーがバラバラなまま本数が増えると、データが分断されて「店の全体像」がどこにも存在しない状態になります。
予約数と売上と人件費を突き合わせて店舗の採算を見る、といった当たり前の分析のために、毎月複数の管理画面からCSVを落として手作業で結合している。多店舗の飲食企業からのご相談では、こうした状態を珍しくお聞きするわけではありません。

この分断を解消する手段が、各SaaSのAPIを使ったデータ連携や、中間データベースを介した統合ダッシュボードの構築です。既存のSaaSはそのまま使い続けながら、その上に横串のデータ基盤だけを開発で足す構成なので、「SaaSを捨てて全部作り直す」話ではありません。むしろSaaSを併用し続けることが前提の開発です。
具体的には、各SaaSから日次でデータを自動取得して1つのデータベースに集約し、店舗別・ブランド別の売上、予約数、人件費率を1画面で見られるダッシュボードにまとめる、といった構成が典型です。前章で触れた需要予測のようなAI活用も、この統合されたデータ基盤があって初めて精度が出ます。データをつなぐ層は、それ自体の効率化効果に加えて、その先のデータ活用の土台になる投資でもあります。

領域4:自社アプリ・自社会員基盤

グルメサイトやデリバリープラットフォームは集客の入口として有効ですが、送客手数料がかかり、顧客データもプラットフォーム側に蓄積されます。そこで、リピーターの多い業態を中心に、自社アプリや自社会員基盤を持って顧客と直接つながりたい、という相談が典型的です。
会員証・ポイント・プッシュ通知・モバイルオーダー・サブスクをどう組み合わせるかは、その企業の顧客体験の設計そのものであり、差別化の中核になります。既製のアプリ作成サービスで足りる場合もありますが、会員体験を独自に設計したい場合や、既存のPOS・予約システムと深く連携させたい場合は、個別開発の領域に入ってきます。新規事業として飲食×ITのサービスを立ち上げるケースもここに含まれます。

この領域を検討する際に意識したいのは、アプリ本体よりも「会員データを自社のものとして蓄積できる構造」のほうが本質だという点です。来店頻度・注文履歴・予約傾向が自社のデータベースに貯まっていれば、施策の打ち方も、前述の需要予測のようなデータ活用も、自社の裁量で設計できます。
アプリはその入口にすぎません。だからこそ、見た目の完成度だけでなく、POSや予約システムとどうデータをつなぐかまで含めた設計が要る領域です。

4つに共通するのは、いずれも「自社にしかない形」を持つ業務・体験だという点です。既製品は多数の店舗に共通する形に合わせて作られるため、ここを無理にSaaSへ寄せると、ツール側にも業務側にも歪みが出ます。SaaSの守備範囲の外にはみ出した部分こそ、自社に合わせた開発が効く場所です。

Swoooの飲食領域の開発事例:カフェ空席検索アプリ「イマカフェ」

Swoooが飲食領域で開発した事例として、カフェの空席検索アプリ「イマカフェ」を紹介します。
先にお断りしておくと、これは消費者向け(BtoC)のアプリであり、POSや予約管理・シフト管理のような店舗運営システムの開発事例ではありません。飲食領域に関わる開発事例として、実態に即して紹介します。

イマカフェは、「今すぐ入れるカフェが見つからない」という消費者の課題に対して、徒歩10分圏内の空いているカフェを検索できるスマホアプリです。LINEログイン、現在地からの地図検索、カフェの詳細表示、空席確認の依頼と応答、予約、通知といった機能を備えています。
技術面では、ノーコード開発ツールのBubbleで開発し、開発期間は約4ヶ月でした。位置情報を使った検索体験と、店舗側とのやり取り(空席確認依頼への応答)をアプリ内で完結させる設計がポイントです。

開発手法の面でも補足しておきます。消費者向けの飲食系アプリは「作ってみないと使われ方が分からない」性質が強いため、数ヶ月単位で形にして実際のユーザーの反応から学べる開発手法との相性が良い領域です。LINEログインのような認証まわりや通知の設計も、ノーコードと外部サービスの組み合わせで実装しています。

この事例が示しているのは、前章の領域4に挙げた「消費者と直接つながる接点」を、数ヶ月・現実的な予算感で形にできるということです。飲食領域の新しいサービスを検討している事業者にとって、最初のプロダクトをこの規模感で検証できることには意味があります。新規事業としての立ち上げ方は新規事業開発支援プランで詳しく説明しています。

一方、店舗管理側の個別開発、たとえば書式のそろわない帳票をAIで読み取って原価を可視化するようなシステムについては、業種は異なりますが建設業向けに開発した事例があります。仕入先ごとにバラバラな請求書・納品書をAIで自動読み取りし、台帳作成の工数を大きく削減した構成で、飲食業の仕入れ・原価管理にも応用できる型です。詳しくは建設業のDXとシステム開発の解説記事を参照してください。バックオフィス業務へのAI組み込み全般は業務AI化支援で扱っています。

費用感と進め方:小さく検証してから広げる

自社に合わせた開発と聞くと大がかりな投資を想像されがちですが、開発手法によって費用の幅は大きく変わります。飲食領域で相談の多いシステム種別の目安は次のとおりです。

開発の内容ノーコード開発スクラッチ開発
業務管理システム(本部ダッシュボード・在庫/原価管理など)50万〜200万円500万〜1,000万円
予約システム(業態特有の予約・課金ロジックを含む)100万〜250万円500万〜1,500万円
AI連携を含むアプリ(帳票読み取り・需要予測など)200万〜600万円1,000万〜4,000万円

このほか、要件定義の工程は全体の10〜15%程度、稼働後の保守はノーコードの場合で月3万〜20万円程度が目安です。既存システムにLLMのAPI活用を足す小規模な構成なら50万〜300万円程度から検討できます。相場の詳しい内訳はWebアプリ開発の費用相場で解説しています。
イマカフェのような消費者向けアプリも、ノーコードを軸にすれば同じ考え方で費用を組み立てられます。会員・予約・通知を備えたアプリの初期開発を、スクラッチの数分の一の予算で検証する構成が現実的です。

飲食向けのシステムで見落とされがちなのが、初期開発費よりも稼働後の運用設計です。連携先のSaaSやデリバリープラットフォームはAPIの仕様変更やプラン改定が珍しくなく、連携部分はその変化に追従するメンテナンスが前提になります。
見積もりを取る際は、初期費用だけでなく「連携先の仕様変更にどう対応するか」「障害時の連絡体制はどうなっているか」まで含めて確認しておくと、稼働後の想定外を減らせます。営業時間中に止まると売上に直結するシステムだからこそ、保守の中身は初期費用と同じ重みで比較すべき項目です。

補助金:省力化投資は国の支援対象になっている

前述のとおり、政府は飲食業を省力化投資促進プランの対象業種としており、関連する補助制度があります。個別開発との適合という観点では、中小企業省力化投資補助金(一般型)が代表的です。補助率は中小企業で1/2(賃上げ要件を満たす場合2/3)、補助上限は750万〜8,000万円で、外部の開発会社と連携した専用システムの構築も対象になり得ます。
一方、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金、上限5万〜450万円)は登録済みITツールの導入が前提のため、オーダーメイド開発は実務上対象外です。SaaS導入はこちら、個別開発は省力化投資補助金、という住み分けで考えると整理しやすくなります。

なお、いずれの制度も審査があり、申請すれば必ず採択されるものではありません。公募時期や要件は変わるため、検討の際は必ず最新の公募要領を確認してください。

進め方:3段階で小さく始める

進め方でお勧めしたいのは、最初から全店舗・全業務を対象にせず、小さく検証してから広げることです。具体的には次の3段階です。

  • ①検証:一番負荷の大きい1業務(たとえば本部の売上集計、あるいは仕入れ帳票の処理)だけを対象に、実データで削減効果を確かめる。消費者向けアプリなら、中核機能だけのMVP(検証用の最小構成)を一部店舗・一部ユーザーで試す
  • ②本番化:検証で効果が数字で見えた範囲を、日常業務で使える形に仕上げる。店舗別の権限設計や例外時の運用ルールもこの段階で固める
  • ③拡張:対象店舗を広げる、POSや会計システムとの連携を足す、ダッシュボードや通知を充実させる、といった形で範囲を広げる

この順序なら初期投資を抑えられるうえ、途中で「思っていたものと違う」となるリスクも小さくなります。特に多店舗展開の企業では、1〜2店舗でのパイロット運用を挟むことで、現場の使われ方を確かめてから全店に広げられます。営業時間中の現場に新しい仕組みを入れる以上、この段階設計は費用面だけでなくオペレーション面のリスク管理としても効きます。

開発会社の選び方:飲食の業務フローとAPI連携を具体的に語れるか

個別開発を検討する場合、依頼先の見極めが結果を大きく左右します。飲食店のシステム開発という題材に対しては、次の観点を確認してください。

  • 既存SaaSとの連携を前提に設計できるか:POS・予約・シフトのSaaSを置き換えるのではなく、残したままAPIでつなぐ設計ができるか。外部APIの連携実装の経験を、具体的な事例で確認しましょう
  • 要件定義から一貫して対応できるか:多店舗の権限設計や業態特有のオペレーションは、会社ごとのルールの塊です。出来上がった仕様書を実装するだけの体制ではなく、業務の聞き取りと整理から入れる会社のほうが、実態に合ったシステムになります
  • 権限設計・セキュリティを具体的に語れるか:売上・原価・会員情報は、店舗・役職ごとに見せる範囲を制御すべきデータです。どの仕組みでアクセス制御を実装するのか、設計レベルの説明を求めてみてください
  • 小さく始める提案が出てくるか:最初から全店一括の大規模開発を勧めてくる場合は慎重に。パイロット店舗での検証から段階的に広げる進め方を提案できるかは、経験値の分かりやすい指標です

商談の場では、「いま使っているSaaSの構成を伝えるので、どこを残してどこを開発するか、切り分け案を出してもらえますか」と聞いてみるのが手軽で確実です。経験のある会社なら、残すべきSaaSと開発が効く範囲、連携の技術的な難所まで、その場で具体的に答えられるはずです。逆に、構成を聞く前から特定の作り直しを勧めてくる場合は、切り分けの検討が浅い可能性があります。
あわせて、開発体制と品質管理の中身も確認しておきましょう。リリース前のチェック項目が整備されているか、アクセス権限やデータ保護の設計方針を文書で示せるかは、飲食のように会員情報・売上情報を扱うシステムでは特に重要です。

Swoooは東証グロース上場の株式会社アイビスが運営する開発サービスで、Bubble公式のGoldパートナー(日本1位)です。イマカフェのような消費者向けアプリから、AIを組み込んだ業務システムまで、要件定義から開発・テストまで一貫して手がけています。新規サービスの立ち上げは新規事業開発支援、既存業務へのAI組み込みは業務AI化支援で対応しています。

よくある質問

Q. 何店舗くらいからSaaSでは足りなくなりますか?

店舗数だけでは決まりません。同じ10店舗でも、全店が同一オペレーションならSaaSの標準機能で回りますし、店舗ごとに仕入れ先・価格・メニューが異なるなら数店舗でも本部集計が手作業化します。
目安になるのは、店舗数そのものより「店舗ごとの例外ルールの多さ」と「並行して使っているSaaSの本数」です。管理画面をまたいだ転記・集計作業に本部の担当者が毎月何時間使っているかを一度計ってみてください。その時間が恒常的に大きいなら、横串のデータ基盤を検討する入口に立っていると言えます。

Q. 個別開発すると、いま使っているPOSや予約SaaSは入れ替えになりますか?

入れ替えは必須ではなく、むしろ残す設計が基本です。POS・予約・シフトのような成熟したSaaSはそのまま使い続け、足りない部分(本部横断の集計、業態特有のロジック、会員基盤など)だけを開発してAPIで連携させる構成のほうが、移行リスクも費用も抑えられます。
現場スタッフが操作に習熟しているという事実自体が資産です。全面刷新は、連携で解決できないことが明確になってから検討すれば十分です。

Q. 自社のモバイルオーダーや会員アプリを作る費用はどのくらいですか?

構成によって幅がありますが、ノーコードを軸にした場合、会員・予約・通知を備えたアプリの初期開発で100万〜350万円程度が一つの目安です(予約システムで100万〜250万円、SNS・コミュニティ要素を含む構成で150万〜350万円)。スクラッチ開発では同等の内容で500万〜1,500万円以上になることが多く、検証段階ではノーコードの費用対効果が効きます。
重要なのは、最初から全機能を作らないことです。中核の体験だけを先に出して反応を見る進め方なら、初期費用を抑えつつ、その後の機能追加の判断材料も得られます。

Q. 補助金は個別のシステム開発にも使えますか?

制度によります。中小企業省力化投資補助金(一般型)は、外部の開発会社と連携した専用システムの構築も対象になり得る制度で、個別開発との適合性が比較的高い選択肢です。一方、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)は登録済みITツールの導入が前提のため、オーダーメイド開発は実務上対象外です。
いずれも審査制であり、採択を前提に資金計画を立てるのは避けるべきです。公募時期・要件は変更されるため、最新の公募要領の確認と、必要に応じて商工会議所や認定支援機関への相談をお勧めします。開発会社側に補助金活用を見据えた見積もり・スケジュールの相談ができるかも、依頼先選びの確認事項に加えておくとよいでしょう。

Q. 開発期間はどのくらいかかりますか?

範囲によります。参考として、カフェ空席検索アプリのイマカフェは、LINEログイン・地図検索・予約・通知を備えたアプリを約4ヶ月で開発しました。本部ダッシュボードのような業務システムなら、対象業務を絞った検証版であればより短い期間で効果の有無を確かめられます。
期間を左右する主な要因は、連携するSaaS・システムの数と、店舗ごとの例外ルールの多さです。特に例外ルールは要件定義の段階で洗い出せているかどうかで、開発中の手戻りが大きく変わります。対象業務・連携先・店舗数を伝えたうえで、概算の期間と費用を確認するのが早道です。

まとめ:独自性のある業務ほど、開発の価値が上がる

飲食店のDXとシステム開発のポイントを整理します。

  • 飲食業の人手不足は構造的で、特に飲食店店長の有効求人倍率は10.0倍(令和5年度)と店舗管理職の採用が最も難しい。労働生産性も219万円と全産業平均917万円との差が大きく(2022年度実績)、政府は2029年度までに35%向上という目標を掲げている
  • モバイルオーダー・予約管理・POS・シフト管理はSaaSが成熟しており、単店舗〜数店舗ならSaaS導入で十分。この領域を開発するのは費用対効果に合わない
  • 多店舗本部の一元管理、業態特有の予約・課金ロジック、複数SaaSのデータ分断の解消、自社アプリ・会員基盤の4領域は、SaaSで吸収しきれず個別開発が効きやすい(Swoooの相談経験にもとづく整理)
  • 費用はノーコード開発なら業務管理システムで50万〜200万円、予約システムで100万〜250万円、AI連携を含む構成で200万〜600万円が目安。中小企業省力化投資補助金など支援制度も選択肢になる
  • 進め方は、負荷の大きい1業務・一部店舗から小さく検証し、効果を数字で確かめてから広げるのが基本

政府が飲食業の労働生産性35%向上(2029年度まで)を掲げて省力化投資を後押しする中で、標準化できる業務は、今後も支援制度とSaaSの進化が効率化を進めていくでしょう。裏を返せば、多店舗の管理体制や業態の独自性のような「自社にしかない形」の部分ほど、効率化・差別化の手段が自社に合わせた開発になり、その価値が相対的に上がっていくということです。
店長の採用が最も難しいという統計が示すとおり、人に頼る余地は年々狭くなっています。その分、少ない人数で店を回すための仕組みへの投資が、店舗網の拡大余力をそのまま左右する時代になりつつあります。

自社の業務がSaaSで済むのか、開発が効くのか。いま使っているツールの構成を整理する段階からで構いませんので、お気軽にご相談ください。検討した結果「SaaSで十分」という結論になるなら、それも正しい切り分けです。

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関連ページ:開発事例:カフェ空席検索アプリ イマカフェ新規事業開発支援業務AI化支援建設業のDXとシステム開発

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