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SAP 2027年問題とは:保守期限の正確な整理と4つの選択肢【延長保守・S/4HANA・他ERP・脱SAP】

執筆:Swooo編集部/監修:諸藤 哲耀(株式会社アイビス Swooo)

SAP 2027年問題とは:保守期限の正確な整理と4つの選択肢【延長保守・S/4HANA・他ERP・脱SAP】

執筆:Swooo編集部/監修:諸藤 哲耀(株式会社アイビス Swooo)

「SAP 2027年問題」とは、SAP ERP 6.0(通称ECC 6.0)を中核とするSAP Business Suite 7のメインストリーム保守が2027年末に終了することに起因する、基幹システム刷新の問題です。国内のSAP ERP導入企業は約2,000社と報じられており、その多くが同じ期限に向かって移行を進めるため、費用・人材・スケジュールのすべてが競合します。

ただし「2027年」という数字だけが独り歩きしがちで、実際の保守期限はEhP(拡張パッケージ)のバージョンによって2025年末・2027年末・2030年末の3段階に分かれます。本記事ではまずSAP公式発表にもとづいて期限を正確に整理し、そのうえで対応の選択肢を、延長保守・S/4HANA移行・他ERPへの乗り換え・脱SAP(リビルド)の4つに分けて、同じ土俵で比較します。移行費用の実データと、5億円級の投資が現実的でない中堅企業の取りうる道も扱います。

SAP 2027年問題とは:保守期限の正確な整理

SAPは2020年2月、SAP Business Suite 7(中核製品はSAP ERP 6.0。ほかにCRM 7.0・SCM 7.0・SRM 7.0)の保守方針を公式に発表しました。二次情報では表記が揺れやすいため、公式発表とその後の整理を期限別にまとめると次のようになります。

対象保守期限
SAP ERP 6.0(EhP0〜5)メインストリーム保守は2025年末で終了済み。延長保守の提供はない
SAP ERP 6.0(EhP6〜8)ほかBusiness Suite 7中核製品メインストリーム保守は2027年末で終了。既存の保守料率に2%ポイントを上乗せすると2030年末まで延長保守を受けられる
SAP S/4HANA2040年末までの保守をSAPが公式に確約

つまり「2027年問題」とひとことで言っても、自社のECCがどのEhPレベルで稼働しているかによって、残された時間は3年単位で違います。EhP0〜5で稼働している場合、メインストリーム保守はすでに終了しており、「2027年に備える」段階ではなく「保守が切れた状態をどう解消するか」の段階にあります。検討の出発点はカレンダーではなく、自社システムのEhPレベルの確認です。

図解:SAP保守期限は1本の線ではない。EhP0〜5は2025年末終了済み、EhP6〜8は2027年末終了・2030年末まで延長可、S/4HANAは2040年末まで確約の3段階

「期限はまた延びるのではないか」という観測との付き合い方

移行の遅れを背景に「SAPが期限を再延長するのではないか」という観測は繰り返し報じられてきましたが、SAPは公式には2027年末の期限を変更していません。一方で、SAPジャパンの経営層が「2031年以降も個別のオプションで顧客を支援する」趣旨の説明をしたことも報じられています。整理すると、「2030年末で完全に崖から落ちる」わけではなく、有償の選択肢で先送りは可能だが、時間を追うごとに割高になる構図です。楽観シナリオを計画の前提に置くべきではありませんが、期限に追われて拙速な移行に踏み切る必要もない、というのが実務的な理解になります。

国内への影響:S/4HANA利用は44.1%

移行はどこまで進んでいるのか。電通総研が2025年9〜10月に実施した「SAPユーザー意識調査2025年度版」(有効回答295社:ECC利用165社・S/4HANA利用130社)によると、S/4HANAを利用している企業は44.1%。前年から5.7ポイント、3年間で16.6ポイント増えていますが、裏を返せば、保守方針の公式発表から6年近く経った時点でも過半数はECC側に残っています。

進まない理由は意欲の問題だけではありません。JSUG(ジャパンSAPユーザーグループ)が2024年11月に公表した会員意識調査では、S/4HANA移行を「検討しているが具体的な計画がない」と答えた企業が35.5%を占めました。方針は決めたが計画に落とせていない層が厚い、というのが実態です。

加えて見落とされがちなのが需給の問題です。約2,000社が同じ期限に向かって動くため、SAPに対応できるコンサルタント・エンジニアの確保は年を追うごとに難しくなります。移行の実務では、費用の高騰より先に「体制が組めない」という形で影響が出ます。着手が遅れるほど、選べる依頼先と交渉の余地が狭まっていくことは、期限そのものと同じくらい計画に織り込むべき変数です。

対応の選択肢は4つ:同じ土俵で比較する

SAP 2027年問題への対応は、大きく4つに分けられます。S/4HANAへの移行はそのうちの1つであって、前提ではありません。どれが合理的かは、SAPの機能をどれだけ使いこなしているか、業務の独自性がどこにあるか、投じられる予算の規模で決まります。

選択肢概要向いているケース注意点
① 延長保守で時間を買う保守料率2%ポイント上乗せで2030年末まで保守を延長するEhP6〜8で稼働しており、移行の方針は固まっているが期間が足りない解決ではなく先送り。EhP0〜5は対象外のため、先にEhPの引き上げが必要になる
② S/4HANAへ移行するブラウンフィールド(既存資産を変換して移行)またはグリーンフィールド(新規に構築し直す)でS/4HANAへSAPの標準機能で業務の大半が回っている。グローバル拠点の統制などSAPの強みを使い切っているアドオンをそのまま持ち込むと費用が膨らむ。移行済み企業の方式はブラウンフィールドが47.6%で最多(電通総研2025)
③ 他のERPへ乗り換える国産ERP・クラウドERPなど、SAP以外のパッケージへ移行するSAPの機能を一部しか使っておらず、機能とコスト構造が自社の規模に合っていないデータ移行・業務の載せ替えの工数はS/4HANA移行と同様に発生する。機能差の検証が必要
④ 脱SAP・リビルド(再構築)業務を再設計し、個別開発でシステムを作り直す業務の独自性が競争力に直結しており、標準機能への置き換えで強みを損ないたくない要件定義と設計の負担が4択で最大。発注先の解析力・設計力に成否が依存する
図解:SAP2027年問題への対応の選択肢は4つ(延長保守・S/4HANA移行・他ERP乗り換え・脱SAPリビルド)

④について補足します。ERPの機能一覧と自社の利用実態を突き合わせると、実際に使っている機能はごく一部だった、というケースは珍しくありません。その場合、ERPからERPへの移行は「使っていない機能ごと新しくする」投資になります。使っている業務だけを個別開発で作り直し、会計・人事給与のような標準業務は市販のパッケージやSaaSに寄せる構成は、④を軸に③を部分的に組み合わせる形と言えます。SAPに限らない刷新方式の一般的な比較(ERP導入・マイグレーション・リビルドの3分類)は、基幹システムのリプレイス完全ガイドで整理しています。

SAP移行におけるFit to Standardの意味:アドオンの仕分け問題

S/4HANA移行では、ECC時代に作り込んだアドオン(独自開発プログラム)を標準機能に置き換える「Fit to Standard」が原則とされています。SAPの文脈でこの言葉が重い意味を持つのは、長く使われたECCには大量のアドオンが蓄積していることが多いためです。1本ごとに「標準機能で代替する/作り直す/廃棄する」を判定する必要があり、この仕分けの工数と判断の質が、移行の費用と成否を左右します。

判断を難しくするのは、アドオンの中身が二種類に分かれることです。当時の制約や担当者の判断で作られ、いま標準化しても支障のないものと、自社の競争力を支える業務ロジックが埋まっているもの。後者まで一律に標準へ寄せると、システムは新しくなっても業務の強みが削られます。仕分けの前提になる「どの業務を標準化し、どの業務の独自性を守るか」という判断軸は、SAPに限らないリプレイス共通の論点としてリプレイス完全ガイドのFit to Standardの章で解説しています。

移行費用の実データ:過半数が5億円超

費用を相場観ではなく実データで見ます。前出の電通総研の調査で移行費用に回答した企業のうち、「10億円以上」が26%、「5億〜10億円未満」が24.7%。合わせて過半数が5億円を超えています。S/4HANA移行が基幹システム刷新の中でも特に大型の投資であることを示す数字です。

費用を押し上げる主因はアドオンです。ブラウンフィールドで既存資産を変換する場合でも、アドオンの互換性検証と改修は避けられません。仕様書が残っていないアドオンは解析からやり直すことになり、本数が多いほど調査・改修・テストの工数が積み上がります。「標準機能に寄せれば安く済む」は方向として正しいのですが、寄せてよいアドオンかどうかの判定自体に工数がかかる、という構造がここにあります。

この実データは、投資判断の問いを立て直す材料にもなります。5億円級の投資に見合うだけ、SAPの機能と統制を使いこなしているのか。答えがイエスなら②は本命です。使っている機能が限られているなら、③や④を含めた比較検討に時間をかける価値があります。基幹システム刷新の費用全般(規模別の相場、リプレイス特有のコスト、TCOでの比較)は基幹システムのリプレイス費用の記事で詳しく解説しています。

中堅企業の現実解:全体を1つのERPで持たない

移行費用の実データは大企業が中心です。従業員数百名規模の中堅企業がECCや同世代のERPを使っている場合、5億円級の移行は予算として成立しないことが多く、「大企業と同じ移行を小さくやる」のではない組み立てが必要になります。実務で機能しやすいのは、次の4ステップです。

  1. 利用実態の棚卸し:ERPの機能のうち実際に使っているもの、アドオンのうち今も業務で動いているものを特定する。以後のすべての判断の土台になる工程です
  2. 標準業務はパッケージ・SaaSへ:会計・人事給与・経費精算など、法制度で手順が決まっている業務は、自社の規模に合った市販製品に寄せる。大型ERPを維持し続ける理由になりにくい領域です
  3. 独自業務は個別開発へ切り出す:受注形態・生産管理・価格決定など競争力に関わる業務は、パッケージに無理に合わせず、業務に合わせて設計する
  4. 残りは廃棄・簡素化する:使われていない機能・帳票・アドオンは移行しない。移行対象を減らすことが、費用を減らす最も確実な手段です
図解:中堅企業の現実解は全体を1つのERPで持たないこと。利用実態の棚卸し→標準業務はSaaSへ→独自業務は個別開発へ→残りは廃棄・簡素化の4ステップ

この組み立てのボトルネックは、長らくステップ1の棚卸しでした。仕様書がなく、コードを読める担当者もいない状態では、利用実態の特定そのものに大きな調査費がかかるためです。ここは生成AIによるコード解析・仕様復元が効果を出しやすい工程で、従来は範囲を絞って人手で行うしかなかった調査のかけ方が変わりつつあります。AI駆動開発が発注側に何をもたらすかはAI駆動開発とは:発注側が知っておくべき変化にまとめています。

「2025年の崖」の総括から見た2027年問題

経済産業省が2018年のDXレポートで示した「2025年の崖」は、レガシーシステムを放置した場合の経済損失を警告した言葉でした。では2025年を過ぎてどうなったか。経済産業省・デジタル庁・IPAが事務局を務めたレガシーシステムモダン化委員会は、2025年5月の総括レポートで、DXとレガシー脱却の進捗を「依然としてスピード感に欠ける」と評価しています。崖は越えられて終わったのではなく、期限だけが過ぎた、というのが公式の総括です。

同レポートはレガシーシステムの定義も整理し直しています。技術面では老朽化・肥大化と並んで「ブラックボックス化」(仕様が文書化されず属人化した状態)を挙げ、モダン化した後でも保守のやり方次第で「再レガシー化」すること、レガシーが足かせとなって生成AIのような新しい技術と連携できないことを指摘しました。

この整理に立つと、SAP 2027年問題の位置づけがはっきりします。「2025年の崖」というマクロの警告が、保守期限という具体的な締め切りを持つ各論に分解された。その最大級の一つが2027年問題です。同じ構図の問題は、Windows ServerのEOLやCOBOL技術者の減少など他にも控えています。そして各論に共通する本質は、期限ではなくブラックボックス化のほうにあります。中身の分からないシステムは、移行の見積もりも移行後の検証もできないからです。期限対応を「間に合わせて終わり」にせず、刷新の過程で仕様を文書として資産化し、再レガシー化しない保守体制まで設計しておくことが、次の期限で同じ問題を繰り返さない条件になります。

よくある質問

Q. 2027年末を過ぎてもECCは使い続けられますか?

システム自体が止まるわけではありません。ただしメインストリーム保守の終了後は、法改正対応や不具合修正・セキュリティ修正の提供を受けられなくなります。EhP6〜8であれば保守料率2%ポイント上乗せの延長保守で2030年末まで、その先もSAPの個別オプションや第三者保守という有償の選択肢は存在しますが、いずれも「リスクと費用を引き受けて時間を買う」判断であって、恒久的な解決ではありません。

Q. まだ何も着手していません。2027年末に間に合いますか?

規模によりますが、基幹システムの移行は現状分析から稼働まで年単位を要するため、規模の大きい構成でいまから2027年末の完全移行を狙うのは現実的ではありません。EhP6〜8で稼働しているなら、延長保守で2030年末までの時間を確保したうえで、方式の比較と計画づくりに腰を据えて取り組むのが現実的です。EhP0〜5の場合は保守がすでに切れているため、EhPの引き上げを含めた応急対応の検討が先になります。

Q. S/4HANAに移行しない企業は実際にあるのですか?

あります。S/4HANA利用率44.1%(電通総研2025)の裏返しとして過半数は未移行であり、その中には延長保守で計画を練っている企業だけでなく、他ERPへの乗り換えや個別開発での再構築を選ぶ企業も含まれます。移行しないこと自体がリスクなのではなく、期限と選択肢を把握しないまま時間が過ぎることがリスクです。

Q. 脱SAP(リビルド)を検討する場合、何から始めればよいですか?

利用実態とアドオンの棚卸しからです。何を使っていて、何が業務の独自性に関わるのかが分からないまま、方式は選べません。棚卸しの結果、リビルドではなくERP側の選択肢が合理的だと分かることもあり、その場合でも棚卸しの成果は移行対象の絞り込みとして費用圧縮にそのまま効きます。進め方の全体像は基幹システムのリプレイス完全ガイドを参照してください。

まとめ:期限の確認から、仕様の資産化へ

本記事の要点を整理します。

  • SAP ERP 6.0のメインストリーム保守は2027年末に終了する。ただしEhP0〜5は2025年末で終了済み、EhP6〜8は保守料率2%ポイント上乗せで2030年末まで延長可能。まず自社のEhPレベルを確認する
  • 国内SAPユーザー約2,000社のうちS/4HANA利用は44.1%(電通総研2025)。移行需要の集中で、人材・体制の確保は年々難しくなる
  • 選択肢は延長保守・S/4HANA移行・他ERP乗り換え・脱SAP(リビルド)の4つ。S/4HANA移行は選択肢の1つであって前提ではない
  • 移行費用は過半数が5億円超(同調査)。費用の主因はアドオンの解析・改修で、移行対象の棚卸しと絞り込みが総額を左右する
  • 中堅企業は「全体を1つのERPで持たない」構成が現実解。標準業務はパッケージ・SaaSへ、独自業務は個別開発へ切り出す
  • 問題の本質は期限ではなくブラックボックス化。仕様を文書として資産化する刷新が、次の期限問題の予防になる

Swoooは、東証グロース上場の株式会社アイビス(証券コード9343)が運営する開発チームです。Claude Codeを中心とするAI駆動開発とノーコードによる受託開発の実績は累計50件以上です。基幹刷新の前段で必要になる、仕様書が残っていない独自プログラムの解析・仕様の文書化や、標準業務と独自業務を切り分けた個別開発について、「どの選択肢が合理的か分からない」段階からご相談いただけます。

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